ITパスポート ストラテジ系対策:法務・経営戦略・計算

ITパスポート 攻略シリーズの第7回です。この連載では、第1回で2025年以降の合格・不合格体験記42人分を読み込み、IPA(情報処理推進機構)の公式情報と突き合わせて、合格に効くやり方を整理しています。
前回はマネジメント系を取り上げました。今回は ストラテジ系(経営全般) です。100問のうち35問程度が出題され、採点の対象になるのは32問。3分野の中で「社会人なら何とかなる」と思われやすい分野ですが、体験記を読むと、ここで点を落として不合格になった人がいます。
この回では、法務(取適法・生成AIと著作権・個人情報)、経営戦略のフレームワーク、計算問題、そして多くの人がつまずいた 3文字略語の覚え方 を順に見ていきます。
私たちは資格の問題集アプリ「ナレッジバンドル」を作っていて、解説に出てくる用語をタップすると専用の用語辞書が開くようにしています。略語のように、問題を解いている途中で意味を確かめたくなる言葉が、ITパスポートには特に多いからです。
ストラテジ系で落ちた人と、ストラテジ系に助けられた人
「得意なはず」の分野がいちばん低かった
2026年1月末に570点で不合格になった かとう さんは、原因をこう振り返っています。
「分野別ではストラテジ系の点数が400点台で、ここが弱点になっていました。」
同じ記事で、2026年1月の時点で新しいシラバスが出ていたことを十分に意識していなかった、とも書いています。2回目はストラテジ分野を意識して見直し、600点を超えて合格しました。
40代のメガネ さんは、民間企業と公務員の経験がある地方公務員の係長です。それでも結果は590点で不合格。敗因の一つをこう書いています。
「一番得意なはずの経営・ビジネス全般(ストラテジ系)が最も低い点数というオチまでつきました。」
理由として挙げているのが、ERPやCRMなどの 3〜4文字の略称の暗記を後回しにしたこと です。仕事で経営に触れていても、試験で問われるのは用語の正確な意味です。
合格者の中にも、ストラテジ系で苦しんだ人がいます。ほひ さんは総合610点で合格しましたが、分野別はストラテジ475点で3分野の中で最も低く、ストラテジはほぼ初見の問題だったと書いています。
仕事の経験がそのまま得点になった人
逆に、社会人経験がストラテジ系を支えたという合格者も少なくありません。営業マネージャーの ぽかぽか さんは、こう書いています。
「ストラテジ、マネジメントはまだ普段の仕事と通づる部分も多く割とサクサク行けたのですが」
会社員歴20年ほどで、参考書を通読せず、ほぼ過去問サイトの問題演習だけ・約1週間の勉強で合格した super_fairy757 さんも、「IT以外の問題は、社会人経験が意外と役に立つ」と振り返っています。組織・契約・コンプライアンスといった問題で「これは普通に会社でやってきたことだな」と思えるものが結構あった、という書き方です。
ただし、この2人はそれぞれ「問題はテクノロジ」「誰でも1週間で受かる、とは思わない」とも書いています。仕事の経験で取れるのは、身近なテーマの問題まで。法律の名前や略語、計算は、経験だけではカバーしきれません。かとうさんと40代のメガネさんの例は、そこを示しています。
令和8年度の公開問題で、ストラテジ系は何が出たか
IPAが2026年度に公開した令和8年度の公開問題100問のうち、ストラテジ系は問1〜問34の34問でした。論点を4つに分けると、次のようになります。

- 法務・知的財産まわりが8問。生成AIと著作権(問1)、パブリシティ権(問11)、匿名加工情報(問13)、サイバーセキュリティ基本法(問21)、請負契約(問29)など
- 経営戦略・組織・マーケティングが10問。ニッチ戦略(問32)や事業部制組織(問30)は、用語の定義ではなく、最も適切な事例を選ばせる形でした
- 計算は3問。マクシミン戦略(問3)、製造間接費(問9)、自己資本比率(問26)
- 業務改善・システム・AI・データが13問。生成AIやAIの用語はここに多く入っています(AIの用語は第9回でくわしく扱います)
2025年10月に受験した 村中仁斗 さんは、本番の印象を「ストラテジ分野はAIに関連した法案やAIの特性に関する問いが非常に多かったです。」と書いています。法務は、AIの話題とセットで出ると考えておくのが安全です。
法務①:取適法(シラバスVer.6.5で下請法から差し替え)
現行のシラバス Ver.6.5(2026年1月掲載)の変更点は1つだけで、「下請法」を削除して「中小受託取引適正化法(取適法)」を加えたことです(IPA 試験要綱・シラバスについて)。シラバスでは、中小受託事業者に対する代金の支払遅延などを防いで、その利益を守る法律として位置づけられています(シラバス Ver.6.5)。
公正取引委員会によると、取適法は下請法(下請代金支払遅延等防止法)を改正したもので、2026年1月1日に施行 されました。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」です(公正取引委員会 取適法関係)。
試験対策として押さえたいのは、下請法からの変化です。公正取引委員会の説明から、主な点を拾います(公正取引委員会 取適法・振興法)。
- 呼び方が変わった: 発注する側は「委託事業者」、受注する側は「中小受託事業者」
- 対象が広がった: 資本金の基準に加えて従業員数の基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)ができた。発荷主が運送事業者に運送を委託する取引(特定運送委託)も対象になった
- 禁止事項が増えた: 中小受託事業者から価格の協議を求められたのに、協議に応じない・必要な説明をしないまま一方的に代金を決めることを禁止
- 手形払いの禁止: 支払手段として手形は使えなくなった
注意したいのは、解いている問題の版です。シラバスVer.6.4以前に合わせた問題や解説には、まだ「下請法」で載っています。6.4と6.5の差はこの1点だけなので、使っている問題集やアプリが6.4対応なら 取適法だけ上の4点で補えば足ります。なお、Ver.6.5が何月の試験から適用されるかは、本稿の執筆時点では公式に確認できていません。「下請法」と「取適法」のどちらの名前で問われても答えられるようにしておくのが無難です。
法務②:生成AIと著作権(令和8年度 問1)
シラバスVer.6.5の法務には、AIが学習に使うデータとAIが生成したデータについて、著作権の観点で留意が必要だと書かれています。
令和8年度の問1は、まさにここを問う問題でした。生成AIで作った、好きなアーティストの曲に似た楽曲について、次の3つのうち、著作権者の許諾が必要になる可能性があるものを選ばせます(出典:令和8年度 ITパスポート試験 問1。内容を要約)。
- 似せて作った曲をインターネットにアップロードして無料で公開した
- 似せて作った曲を自分のPCに保存して、個人で聴いた
- 偶然似た曲ができたので、自分のPCに保存して、個人で聴いた
正解は 1だけ です。考え方の土台は、文化庁が整理した「AIと著作権に関する考え方について」にあります(文化庁 概要資料)。
- 開発・学習の段階と、生成・利用の段階は分けて考える
- 学習の段階は、主に著作権法第30条の4の話。著作物に表現された思想や感情を「自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」には、必要と認められる限度で利用できる。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は除かれる(著作権法 e-Gov)
- 生成・利用の段階は、AIで作ったものをSNSに公開したり販売したりする場合、「通常の著作権侵害と同様の基準で、侵害となるか否かが判断されます。」。つまり既存の作品との 「類似性」と「依拠性」 で判断する
- 簡単な指示を与えて「生成」ボタンを押しただけのものは、著作物にあたらないと考えられている。人が「道具」としてAIを使ったといえるかは、人の 「創作意図」と「創作的寄与」 で判断する
問1の2と3は、個人で楽しむ範囲にとどまっているので許諾がいらない、という整理です。「生成した」だけでは問題にならず、「公開・販売した」ところで通常の著作権侵害と同じ基準がかかる、と覚えておくと選択肢を切りやすくなります。
法務③:匿名加工情報と、情報流通プラットフォーム対処法
匿名加工情報(令和8年度 問13)
個人情報保護法の用語は、似た言葉の区別が問われます。法律の定義を並べると違いがはっきりします(個人情報保護法 第2条 e-Gov)。
- 匿名加工情報: 特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を「復元することができないようにしたもの」
- 仮名加工情報: 「他の情報と照合しない限り」特定の個人を識別することができないように加工したもの
見分けるポイントは、「元に戻せない」のが匿名加工情報、「ほかの情報と照らし合わせれば分かる」のが仮名加工情報 です。シラバスの用語例には匿名加工情報のほか、要配慮個人情報・個人識別符号・オプトイン/オプトアウト・第三者提供などが並んでいます。
情報流通プラットフォーム対処法(シラバスVer.6.4で差し替え)
もう一つの「名前が変わった法律」が、旧プロバイダ責任制限法です。2025年4月に改正法が施行され、「情報流通プラットフォーム対処法」になりました(総務省)。シラバスはVer.6.4でこの名前に置き換わり、用語例には「発信者情報開示請求」「送信防止措置依頼」「侵害情報の削除手続の迅速化及び運用状況の透明化」が挙がっています。
SNSでの誹謗中傷などに対して、大規模なプラットフォーム事業者に対応の迅速化と運用状況の透明化を求める法律、という大枠で押さえておきましょう。
このほか令和8年度には、著名人の氏名や肖像から生じる権利(パブリシティ権。シラバスでは、明文の法律はないが判例で認められた権利と説明)も出ています。

経営戦略:フレームワークは「名前」ではなく「事例」で覚える
シラバスVer.6.5の経営戦略の用語例には、SWOT分析、PPM、VRIO分析、3C分析、競争優位、コアコンピタンス、ニッチ戦略、ブルーオーシャン戦略、アライアンス、M&Aなどが並んでいます。
令和8年度の問32は、ニッチ戦略の「事例」を4つから選ぶ問題でした。正解は、自社固有の加工技術を生かした高価な調理器具を、高級レストラン向けという限られた市場に売る、という選択肢です(出典:令和8年度 ITパスポート試験 問32。内容を要約)。「ニッチ=すき間市場」と名前だけ覚えていても、低価格で全国に売る案や、同業他社との経営統合の案と並べられると迷います。
フレームワークは、次のように 「何を、何の軸で分けるか」まで言える 状態にしておくと、事例問題に強くなります。
- SWOT分析: 内部環境の「強み・弱み」と、外部環境の「機会・脅威」の4つに分ける
- PPM: 市場成長率と市場占有率の2軸で、事業や製品を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」に分ける
- 3C分析: 顧客(Customer)・競合(Competitor)・自社(Company)の3つの視点で分析する
- ニッチ戦略: 大手が狙わない小さな市場に絞って、独自の地位を築く
- ブルーオーシャン戦略: 競争のない新しい市場をつくる
合格者の Latte014 さんは、やってよかったこととして「単語ひとつずつバラバラで覚えるのではなく、概念として捉える。」を挙げています。工場や生産ラインの話か、発注する側のマネージャーが使う言葉か、といった 「誰が使う言葉か」で整理する やり方です。
事例問題は、正解を当てるだけでなく 「ほかの選択肢がなぜ違うのか」まで確かめる と力がつきます。ニッチ戦略の問題なら、低価格で全国に売る案は何の戦略にあたるのか、経営統合の案は何と呼ぶのか、まで答えられれば、同じテーマで別の聞き方をされても迷いません。解説で各選択肢の正誤まで読める問題を使っていれば、この確認は1問ごとにその場で済み、フレームワークの説明を本で別に読み込む必要はありません。
計算問題:損益分岐点と自己資本比率は「型」で解く
ITパスポートの試験会場には電卓を持ち込めません。計算は会場で配られるメモ用紙に手で書いて解きます。
計算から逃げて落ちた例が、きのこmama さんです。不合格の原因の一つに「計算問題演習ほぼせずに臨んだ。」を挙げ、再受験で合格したあとには「計算からは逃げられない、ということですね。」と書いています(合格編)。
一方、合格者の nino-san さんは、計算問題を損益分岐点・損益計算書・進数・アローダイアグラム・稼働率の5つに絞りました。全部をやるのではなく、よく出る型だけは確実に取る という方針です。ストラテジ系でいえば、損益分岐点と財務指標がその中心になります。シラバスにも「損益分岐点や利益率などの簡単な計算」が活用例として書かれています。
損益分岐点(数字は説明用の例)
- 固定費 400万円、変動費率 60%(売上100円あたり変動費60円)の会社
- 売上から変動費を引いた残り(限界利益)は、売上の 1 − 0.6 = 40%
- この40%で固定費400万円をちょうど回収できる売上が損益分岐点なので、400万円 ÷ 0.4 = 1,000万円
- 式にすると 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷(1 − 変動費率)
式を丸暗記するより、「売上のうち何%が固定費の回収に回るか」と意味で覚えておくと、変動費が金額で与えられる問題(変動費率を自分で出す問題)にも対応できます。
自己資本比率(数字は説明用の例)
- 貸借対照表で、負債 600万円、純資産 400万円の会社
- 自己資本比率 = 自己資本 ÷(負債 + 自己資本)× 100 = 400 ÷ 1,000 × 100 = 40%
- 返さなくてよいお金の割合なので、高いほど経営の安全性が高いとされる
令和8年度の問26は、貸借対照表の表からこの比率を求める問題でした。貸借対照表の「右側(負債と純資産)の合計」が分母になることさえ覚えていれば、落とさずに済みます。
マクシミン戦略
令和8年度の問3で出たマクシミン戦略は、それぞれの案で「最悪の場合の結果」を比べ、その最悪がいちばんましな案を選ぶ 考え方です。表から各案の最小値を拾って、その中の最大を選ぶだけなので、手順を一度練習しておけば得点源になります。
3文字略語は「正式名称」で覚える
体験記で「難しかった」と最も多く書かれていたものの一つが、アルファベット3文字の略語です。40代のメガネさんのほかにも、中古のテキストで挑んで不合格になった人や、G検定・DS検定を持っている合格者が、略語の暗記の大変さを挙げています。G検定・DS検定を先に取った あ さんは、ITパスポートを振り返って「正直、ITパスポートは「苦行」だった」と書き、英語の略語を正式名称と定義まで正確に覚え直す作業がつらかったと振り返っています。
合格者が使っていたやり方は、次の図のようにまとまります。

いちばん具体的なのが、800点台で合格した Latte014 さんのやり方です。
「BPRとか英語3文字系は1回全文(business process reengineering)で音読する」
本人は、日常的になじみのある英単語が多いので、丸暗記しなくても何となく意味を思い出せるようになる、と書いています。末尾がMの略語はManagementのことが多い、とも気づいています。
ほかの合格者のやり方も方向は同じです。
- 略語は正式名称を意識する(mmc さん)
- SoRとSoEのような似た略語は、並べて違いを整理する(らーゆ さん)
- わからない用語をスプレッドシートに書き出し、声に出して確認する(3回目で合格した 私の人生@まだ途中 さん)
ポイントは、「CRM=顧客関係管理」と記号どうしで覚えるのではなく、Customer(顧客)・Relationship(関係)・Management(管理)と単語に分けて意味をつなぐ ことです。こうしておくと、見たことのない略語が出ても、単語から意味の見当をつけられます。
略語は、問題の中で出会ったときにその場で調べるのがいちばん残ります。私たちのアプリでは、解説に出てきた用語をタップすると専用の用語辞書が開くので、用語集や参考書を別に開かなくても、正式名称と意味をすぐ確かめられます。それでも分かりにくい略語は、その問題をそのままAIに質問して噛み砕いてもらえます。間違えた問題だけを絞り込んで解き直せば、覚えきれていない略語が自然に残っていきます。
年内に受ける人へ:今の試験の範囲で対策する
9月28日以降の新規申込で選べるのは、2026年12月27日までの試験日 です。12月28日からはシステム入れ替えのため試験が一時休止し、2027年1月以降の実施は「2026年秋頃」に発表される予定です(IPA)。
2027年度からは新しい試験制度になり、新しいITパスポートは2027年度春頃に始まる予定です。分野は「ビジネス」「テクノロジ」「セキュリティ・倫理」に組み直され、倫理やセキュリティが強化されます(IPA)。配点や合格基準はまだ公表されていません。年内に受けるなら、今回紹介した現行シラバスVer.6.5の範囲(取適法を含む)で対策すれば十分 です。
まとめ:ストラテジ系は「経験」+「用語・法律・計算」で取る
- ストラテジ系は仕事の経験が生きる一方、「得意なはず」で油断して400点台・最低点になった人もいる
- 令和8年度のストラテジ系34問のうち、法務まわりが8問、計算が3問
- 法務は 取適法(Ver.6.5で下請法から差し替え・2026年1月施行)、生成AIと著作権(学習と生成・利用を分ける/類似性と依拠性)、匿名加工情報と仮名加工情報の違い、情報流通プラットフォーム対処法 を押さえる
- 経営戦略のフレームワークは、名前ではなく 「何を、何の軸で分けるか」と事例 で覚える
- 計算は 損益分岐点・自己資本比率・マクシミン の型だけは確実に。電卓なしの手計算で練習する
- 3文字略語は 正式名称を音読し、単語に分けて意味をつなぐ
次回の第8回は、採点対象の問題数が最も多いテクノロジ系です。セキュリティ・ネットワーク・データベースの頻出テーマと、「擬似言語は捨てるべきか」を体験記から考えます。
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ITパスポートのほか、100以上の資格・検定(レビュー中含む)が1つのアプリで使い放題です。アプリ内の教材追加画面で「ITパスポート」と検索してください。
※この記事は2026年9月25日時点の公開情報をもとにしています。試験の制度・日程や法令の内容は変わることがあるので、受験前に必ずITパスポート試験 公式サイトと各省庁の一次情報で確認してください。体験記の引用は各記事の原文から行い、リンク先に出典を明記しています。公開問題は IPA の利用条件に従い、出典を示したうえで内容を要約しています。