GX検定ベーシック第1・2章対策:気候変動とパリ協定

連載「GX検定 攻略シリーズ」の第5回です。第1回で2025年以降のGX検定の受験記26人分を読み込み、主催者の公式情報と突き合わせてきたこの連載は、今回から出題範囲を章ごとに見ていきます。
最初は、シラバスの 第1章「脱炭素化の背景とGXの概念」と第2章「脱炭素政策の枠組み」 です。気候変動の科学(IPCC・SSPシナリオ・GWP)、京都議定書とパリ協定、ESG投資、TCFD・ISSB・SBTなどのアルファベット略語、炭素税や排出量取引といったカーボンプライシングがここに入ります。
私たちは資格の問題集アプリ「ナレッジバンドル」を作っていて、GX検定の500問の解説では、TCFD や SBT のような略語をタップすると専用の用語辞書が開くようにしています。この章のように略語が続く範囲で、問題を解く手を止めずに意味を確かめられるようにするためです。
第1・2章は「得点源」、でもここだけでは足りない
受験記には、第1・2章で満点に近い点を取った例があります。
82点で合格した ゼロから学ぶLCA さんの分野別の正答率は、「脱炭素化の背景」100%、「脱炭素化に向けた動き」100%でした。一方で世界の動向は42%、日本政府の動向は66%です。本人は「国内外動向がひどい!」と振り返っています。
体調不良で勉強時間がとれず、70点ちょうどで合格した eumoru さんは、こう書いています。
「テキストの第1章と第2章の勉強でギリギリ合格できた」
同じ記事の結論は「やはり全範囲を勉強するのが大事だと思う。」です。第1・2章は 全体の土台で、確実に点を取りたい分野 ですが、ここだけで合格ラインを越えるのは危うい。この回で要点を短く押さえて、残りの時間は第3章以降に回す、という使い方をおすすめします。
なお、ここで扱う範囲はシラバス Ver.2.0(2025年8月の回から適用)によるものです(GX検定 シラバス・例題)。京都議定書・パリ協定・SDGs は第1章、ESG投資・イニシアティブ・カーボンプライシングは第2章に入っています。どの章から何問出るかは、公式には公表されていません。
第1章:気候変動の科学で押さえる数字
IPCC とAR6
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)が設立した組織です(環境省 平成28年版環境白書)。自分で研究するのではなく、世界の研究をまとめて評価し、報告書を出します。最新の第6次評価報告書(AR6)の統合報告書から、次の2つの数字は押さえておきます(IPCC AR6 統合報告書 SPM 環境省暫定訳)。
- 世界平均気温は、1850〜1900年と比べて 2011〜2020年に1.1℃ 上昇した
- 2020年初めからの 残余カーボンバジェット は、50%の確率で1.5℃に抑える場合 500 GtCO2(67%の確率で2℃に抑える場合は1,150 GtCO2)
残余カーボンバジェットは「気温上昇をある水準に抑えるために、これから出してよいCO2の残り」のことです。
5つのSSPシナリオ
シラバスには「5つのSSPシナリオ」が明記されています。AR6は、将来の社会の姿(SSP)と温室効果ガスの排出量を組み合わせた5つのシナリオで気温を予測しました。2081〜2100年の世界平均気温は、1850〜1900年と比べて次のように高くなる可能性が非常に高いとされています(IPCC AR6 第1作業部会 SPM 環境省暫定訳)。
- SSP1-1.9(排出が非常に少ない): 1.0〜1.8℃
- SSP1-2.6(少ない)
- SSP2-4.5(中程度): 2.1〜3.5℃
- SSP3-7.0(多い)
- SSP5-8.5(非常に多い): 3.3〜5.7℃
覚え方は「ハイフンの前の数字が社会の姿、後ろの数字が排出の多さ(2100年ごろの放射強制力)」。後ろの数字が大きいほど温暖化が進むシナリオです(同資料)。「SSP1-1.9 が最も排出が多い」のように、順番を入れ替えた選択肢に注意しましょう。
GWP(地球温暖化係数)は「メタン28」
GWPは、CO2を1としたときに、同じ量のガスがどれだけ温暖化を起こすかを表す係数です。日本の温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度(SHK制度)では、2024年度の報告から値が更新されました(環境省 脱炭素ポータル)。
- メタン: 25 → 28
- 一酸化二窒素: 298 → 265
古い教材や受験ノートには「メタン25」と書かれていることがあります。今の日本の制度の数字は28です。
第1章:国際交渉の歴史は「年表」で覚える
受験記には、国際的な枠組みや世界の動きを苦手にした人がいました。前述のゼロから学ぶLCAさんも、国内外の政策は表や時系列で整理すべきだったと振り返っています。まずは土台になる国際交渉の流れを1枚にまとめます。

- 1992年 気候変動枠組条約(UNFCCC)採択。以後、締約国会議(COP)で交渉が続く
- 1997年 京都議定書を COP3(京都)で採択、2005年2月16日に発効。先進国(附属書Ⅰ国)だけに法的拘束力のある削減目標を設けた。2008〜2012年の第一約束期間で、日本は1990年比6%、EU全体は8%の削減目標(環境省 平成26年版環境白書)
- 2015年 パリ協定を COP21(パリ)で採択、2016年11月4日に発効(環境省 平成29年版環境白書)
パリ協定のポイントは、国際条約として初めて「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」を掲げたこと、そして先進国・途上国という固定した区別を超えて 全ての国が参加 する点です(環境省 平成28年版環境白書)。各国は5年ごとに削減目標(NDC)を更新・提出し、世界全体の進み具合も5年ごとに確かめます。この確認を グローバル・ストックテイク(GST) と呼び、第1回は2023年のCOP28(ドバイ)で完了しました(環境省 脱炭素ポータル)。
「京都議定書=先進国だけ・数値目標に法的拘束力」「パリ協定=全ての国・目標は各国が自ら決める」という対比が、選択肢の正誤を分ける典型です。NDCやGSTの中身、各国の目標は第3章(世界の動向)の範囲なので、次回の第6回で扱います。

第2章:ESG投資とアルファベット略語
ESG投資
ESG投資は、財務情報に加えて、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の要素を投資判断に組み込む投資です。ESGという言葉は、2006年に国連が機関投資家に「責任投資原則」(PRI)を提唱したことをきっかけに広まりました(GPIF ESG投資)。企業が気候変動の情報を開示するのは、この投資家の求めに応えるためです。ここから、第2章でいちばん覚えにくい略語の話につながります。
略語は「開示・評価・目標」の3つに分ける
TCFD・ISSB・SSBJ・CDP・SBT・RE100・TNFD。受験記でも、アルファベットの略語や似た用語の違いに苦労したという声がありました。1つずつ丸暗記するより、役割で3つに分ける と整理しやすくなります。

開示のルール(企業が気候のリスクをどう書くか)
- TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース): 金融安定理事会(FSB)がCOP21の期間中に設置し、2017年6月に提言を公表。開示の4つの基礎項目は ガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標(環境省 TCFDの概要資料)。2023年10月に解散し、ISSB基準に引き継がれました(IFRS財団)
- ISSB(国際サステナビリティ基準審議会): 2021年11月に設立。2023年6月26日に初の基準 IFRS S1号(全般)とS2号(気候)を公表(SSBJ資料)
- SSBJ(サステナビリティ基準委員会): 日本の基準をつくる委員会。ISSB基準をもとに、2025年3月5日にSSBJ基準を公表(SSBJ)。いつからどの会社に義務がかかるかは第5章の範囲なので、第7回で扱います
- TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース): TCFDの「自然(生物多様性)」版。2023年9月18日に最終提言 v1.0(環境省資料)
評価(開示を集めて点数をつける)
- CDP: 企業に気候変動などの質問書を送り、回答をスコアで評価します。SBTの認定企業も、年に一度CDP気候変動質問書などで進捗を報告します(環境省 中長期排出削減目標等設定マニュアル)
目標(企業が何を目指すかを宣言する)
- SBT: パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガスの削減目標。CDP・UNGC・WRI・WWFの4機関が共同で運営する(同マニュアル)
- RE100: 事業を100%再エネ電力で賄うことを目標とする企業連合。2014年に結成、CDPとのパートナーシップのもとで The Climate Group が運営(環境省 RE100について)
「TCFDは目標を認定する」「SBTは開示の枠組み」のように 役割を入れ替えた選択肢 は、この3分類を頭に入れておけばすぐ外せます。TCFDの4項目の中身(シナリオ分析など)は、企業の取組を扱う第7回でくわしく見ます。
第2章:カーボンプライシングは6つの言葉の違い
カーボンプライシングは、CO2の排出に値段を付けて、減らす動機をつくる仕組みです。シラバスには次の6つが並んでいます。
- 炭素税: 排出量に応じて税をかける。日本では2012年10月から「地球温暖化対策のための税」が導入され、全ての化石燃料にCO2排出量1トンあたり289円相当を上乗せしています(環境省)
- 排出量取引制度: 排出量に上限(排出枠)を決め、枠の過不足を企業間で売買する。日本では2026年度から、CO2の直接排出が一定規模以上の事業者に参加が義務づけられました(経済産業省)。義務の対象や価格の仕組みは第4章の範囲なので第6回で扱います
- クレジット制度: 削減・吸収した量をクレジットとして取引する。日本のJ-クレジットは、省エネ設備の導入や再エネの活用による排出削減量、森林管理による吸収量をクレジットとして国が認証する制度です(J-クレジット制度)
- 再エネ賦課金: 再エネのFIT・FIP制度の支援にかかる費用を、全ての電気の利用者が使用量に応じて負担するもの。2026年度の単価は1kWhあたり4.18円です(経済産業省)
- CBAM(炭素国境調整メカニズム): EUが、域外から輸入する対象製品について、温室効果ガス排出量の報告やCBAM証書の購入を求める仕組み。規制のゆるい国へ生産や排出が移る「カーボンリーケージ」を防ぐねらいがあります。2026年1月から本格適用され、証書の販売は2027年2月1日からです(ジェトロ)
- インターナル・カーボンプライシング: 企業が社内で独自に炭素に価格を付け、設備投資などの判断に使うもの。国の制度ではない点がほかと違います
「税」か「取引」か「クレジット」か、「国の制度」か「企業の社内ルール」か、「国内」か「国境」か。この3つの軸で区別できれば、似た選択肢に迷いにくくなります。
自作の確認問題(3問)
GX検定の過去問は公開されていません。以下は、この記事の内容から編集部が自作した確認問題です。本番の問題ではありません。
- GWPについて、2024年度報告からの日本のSHK制度で使うメタンの値はどれか。(ア)1(イ)25(ウ)28(エ)265
- パリ協定の説明として、最も不適切なものはどれか。(ア)2015年のCOP21で採択された(イ)先進国だけに削減義務を課した(ウ)1.5℃に抑える努力を追求する(エ)各国は5年ごとに削減目標を提出・更新する
- TCFD提言の4つの開示項目に含まれないものはどれか。(ア)ガバナンス(イ)戦略(ウ)リスク管理(エ)再エネ調達比率
答え: 1は(ウ)。(イ)の25は改定前の値、(エ)の265は一酸化二窒素です。2は(イ)。先進国だけに数値目標を課したのは京都議定書です。3は(エ)。4項目のもう1つは「指標と目標」です。
3問とも、正解の選択肢だけでなく、ほかの選択肢がなぜ違うのかまで説明できたでしょうか。過去問がない試験なので、こうした「理由まで確かめる」問題演習の量は自分で確保することになります。私たちのアプリでは、GX検定のオリジナル問題の全問に、正解の理由と各選択肢の正誤の解説を付けています。冒頭で書いた用語辞書と合わせれば、この回の「開示・評価・目標」の区別も、問題を解きながら確かめられます。
11月の試験に向けて
次回の2026年第4回は、受験期間が 11月11日(水)〜25日(水)、個人の申込締切は 10月28日(水)12:00 です(開催スケジュール)。締切は夕方ではなく正午なので、第1・2章から勉強を始めるなら、受ける日を決めて早めに申し込んでおきましょう。
第1・2章は得点源になりやすい一方、冒頭で見たとおり、ここで取れても世界の動向や日本の政策で落とす人がいます。勉強の途中で一度、本番と同じ形式で通して解き、どの分野が弱いかを数字で確かめておくと、残りの時間の配分を決めやすくなります。ナレッジバンドルの本番形式テストでは、いまの合格率と弱点カテゴリをグラフで確認できます。
まとめ:第1・2章は「数字」と「役割」で押さえる
- 科学の数字は 1.1℃(2011〜2020年)・500 GtCO2(1.5℃の残余カーボンバジェット)・メタンのGWP 28
- SSPシナリオは 後ろの数字が大きいほど排出が多い
- 国際交渉は 年表 で。京都議定書は先進国だけ、パリ協定は全ての国
- 略語は 開示(TCFD・ISSB・SSBJ・TNFD)/評価(CDP)/目標(SBT・RE100) の3つに分ける
- カーボンプライシングは 税・取引・クレジット・国境・社内 の違いで区別する
- 第1・2章は土台。ここで止めず、第3章以降に時間を回す
連載の第6回では、受験記で正答率が落ちやすかった第3・4章、世界の動向と日本のGX政策(GX推進法・排出量取引の義務化・第7次エネルギー基本計画・削減目標46/60/73%)を整理します。
GX検定の500問をアプリで解くなら「ナレッジバンドル」

資格対策アプリ「ナレッジバンドル」には、GX検定のオリジナル問題500問がすべて入っています。スキマ時間に1問ずつ解いて、間違えた問題だけを繰り返せます。
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※この記事は2026年9月26日時点の公開情報をもとにしています。試験の制度や日程、出題範囲は変わることがあるので、受験前に必ずGX検定の公式サイトとシラバスで確認してください。政策や数値は環境省・経済産業省などの一次情報で確認し、リンク先に出典を示しています。体験記の引用は各記事の原文から行い、リンク先に出典を明記しています。