証券アナリスト1次 科目Ⅰ対策:計算の型で攻める

証券アナリスト1次 攻略シリーズの第5回です。この連載では、第1回で合格・不合格あわせて25人の体験記を読み込み、日本証券アナリスト協会(以下、協会)の公式データと突き合わせてきました。
今回から3回は科目別の対策です。最初は、配点も試験時間もいちばん大きい 科目Ⅰ「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」 を取り上げます。
- 試験時間 170分・170点満点。3科目合計360点のうち、ほぼ半分(47%)を1科目で占めます(CBTソリューションズ 試験概要)
- 2026年春の合格率は 43.1%。2019年以降の科目Ⅰでもっとも低い数字でした(協会 試験データ)
- 協会の合格者アンケート(2022年秋・全科目合格者388人)では、最も難しかった科目に科目Ⅰを挙げた人が 53.6% で3科目のトップ。3回目以上の受験で合格した人の割合も19.2%で、3科目の中で最多でした(協会 合格者の声)
重くて、難しくて、計算が多い。その科目Ⅰを、どこから崩していくかを整理します。
私たちは資格の問題集アプリ「ナレッジバンドル」を作っていて、証券アナリスト1次の3科目・計1,500問は、すべて過去問とは別のオリジナル問題です。科目Ⅰのように計算の型が問われる科目では、答えを覚えた過去問を回すより、同じ型を数字や聞き方の違う問題で解き直すほうが身につくと考えて、この作りにしています。
科目Ⅰで問われる4つの分野
科目Ⅰは、協会の講座テキストでいうと第1回〜第6回の6回分です。配本の順に、株式市場の仕組みとファンダメンタル分析(6月)、株式分析の基礎・債券分析の基礎(7月)、デリバティブ分析の基礎・現代ポートフォリオ理論の基礎(9月)、ポートフォリオ・マネジメントの基礎(11月)と進みます(協会 学習教材)。
大きく分けると、株式・債券・デリバティブ・ポートフォリオの4分野です。協会が公表している「主要学習事項と学習ポイント」には、1次と2次のどちらで扱う論点かが分けて書かれています。

ここで大事なのは、2次の欄にある論点は1次の範囲外 だということです。たとえばブラック=ショールズ・モデルやグリークス、多期間の二項モデルは2次の論点で、1次はプット・コール・パリティと2期間の二項モデルまでです(協会 2026年度 主要学習事項と学習ポイント)。市販の参考書や海外の教材には2次レベルの話も混ざっているので、「どこまでやるか」は学習ポイントで線を引いておくと迷いません。
出題は原則として前年度の講座テキストから、すべて正解が1つの選択式で、計算問題も選択肢から選びます。各問題の冒頭に配点が表示され、配点の合計は試験時間(分)と同じ、つまり1点=1分です(CBTソリューションズ 試験概要)。問題数は公表されていません。
体験記で「つまずいた」と書かれていた場所
25人の体験記のうち、科目Ⅰについて具体的に書いている人の記述を集めると、つまずく場所はかなりはっきりしています。
- 債券とデリバティブ: 非金融の事業会社から独学で合格した おにおん さん(有料記事への案内がある記事)は、苦労した点に債券の仕組みとデリバティブの理解を挙げています。大学3年で3科目に合格した youuuu さんは、債券・デリバティブ・ポートフォリオ理論など、間違えた論点だけをまとめた苦手分野専用のノートを作っていました。
- 二項モデル: 理系の大学生だった 旅する佃煮 さんは、秋の本番でデリバティブの二項モデルだけができなかったと書いています。科目Ⅰについては「一番時間がかかりました。」とも振り返っています。
- 実務寄りのポートフォリオ理論: 2025年秋に3科目を同時に受けた 揚塩ころも さんは、科目Ⅰの最後の大問(実務寄りのポートフォリオ理論)に歯が立たなかったと書いています。
また、2025年春に受けた Cashcows さんは、受験当日の記事で「科目Iの証券分析が思っていたよりも難しく感じました」と書いています。3科目とも合格した人でも、科目Ⅰには手こずっていることがわかります。
協会のアンケートでも、受講を始めた時点で「証券分析とポートフォリオ・マネジメント」を「テキストレベル」で知っていた人は 7.5% しかいません(「用語レベル」50.5%、「全くない」42.0%)。合格者の勤め先は銀行・証券・運用会社が上位ですが、金融機関で働いていても、計算と理論は一から学んでいる人がほとんど だと読めます(協会 合格者の声)。
2026年春は、科目Ⅰも難しかった
2026年春試験は、3科目合計の合格率が44.6%で、2019年以降でもっとも低い回でした。話題になったのは科目Ⅲ(39.2%)ですが、科目Ⅰも43.1%で、前年春(47.3%)から4ポイントほど下がっています(協会 試験データ)。
体験記にもその難しさが出ています。
- 経済学部3年で合格した 國富 さんは、2026年春は科目Ⅰと科目Ⅲが難化し、直近6年分の過去問でもカバーしていない問題があったと書いています。
- 2026年春に科目Ⅰだけを受けて合格した いーちゃん さんは、受験当日の記事に「大問2の2と3が難しすぎた。」と書き、約3時間でも時間が足りないくらいだったと振り返っています。ほかの計算問題は過去問のおかげで解けた気がする、とも書いています。
- 前述の youuuu さんも「今年度の試験は非常に難しかったです。」と書いています。
一方で、同じ2026年春に受けた Otoshie Mae さん(経済学部出身・債券担当)は、本番で手応えがあったのは科目Ⅰだったと書いています。過去問だけで対応しきれない問題は出るが、基本の論点を理由まで押さえた人は崩れていない、というのが2026年春の体験記から読めることです。
計算は「型」で覚える
科目Ⅰの計算は、出てくる式の種類がある程度決まっています。協会の学習ポイントで「計算できる」とされている項目を中心に、よく使う6つの型をまとめました。数値例は編集部が作ったもので、実際の試験問題ではありません。

いくつか補足します(いずれも自作の例です)。
- CAPM: 安全資産の利子率1%、市場ポートフォリオの期待リターン6%、ベータ1.2なら、期待リターンは 1%+1.2×(6%−1%)=7% です。ベータは、市場全体が1動いたときにどれだけ動くかを表す数字です。この式は株主資本コストとして株式の評価(定率成長モデルの割引率)にもつながります。
- 定率成長モデル: 来期の配当100円、割引率7%、成長率2%なら、理論株価は 100÷(0.07−0.02)=2,000円。分母が「割引率−成長率」になるところを取り違えないことが大切です。
- 修正デュレーション: 修正デュレーション5の債券は、利回りが0.2%上がると価格がおよそ 5×0.2%=1.0% 下がります。これは直線での近似なので、利回りの変化が大きいときはコンベクシティで補正します。
- プット・コール・パリティ: 株価1,000円、行使価格1,000円、1年の金利2%、コール価格80円なら、プット価格は 80−1,000+1,000÷1.02 ≒ 60.4円。コール−プット=株価−行使価格の現在価値、という1本の式から、4つのどれでも出せます。
- 二項モデル: 株価が1期で1.1倍か0.9倍になり、金利が2%なら、リスク中立確率は(1.02−0.9)÷(1.1−0.9)=0.6。行使価格100円のコール(株価100円)は、上がれば10円、下がれば0円なので、価値は 0.6×10÷1.02 ≒ 5.88円 です。1次ではこれを2期間に伸ばした形まで問われます。
- シャープ・レシオ: リターン8%・標準偏差15%のファンドと、リターン6%・標準偏差8%のファンドがあり、安全資産の利子率が1%なら、前者は(8−1)÷15 ≒ 0.47、後者は(6−1)÷8 ≒ 0.63。リターンが低い後者のほうが、リスクあたりの成績は上です。トレーナー・レシオは分母を標準偏差からベータに替えたもの、と組にして覚えると混乱しません。
丸暗記する式と、仕組みから覚える式を分ける
國富さんは、科目Ⅰは公式暗記の要素が強いとしながら、丸暗記だけでは問題を少しひねられたときに対応できないと書き、「「丸暗記でいい公式」と「導出の考え方ごと理解すべき公式」を仕分けるのが効率的です。」とまとめています。
上の6つでいえば、CAPMやシャープ・レシオは形を覚えれば使えます。一方、二項モデルやプット・コール・パリティは同じ損益になる組み合わせは同じ値段になる(無裁定)という考え方から組み立てられるようにしておくと、聞き方が変わっても解けます。
型を覚えたら、次は数字や聞き方を変えた問題で何度も使うことです。過去問だけを何周もすると答えそのものを覚えてしまうので、同じ型を別の問題で解き直すほうが身につきます。私たちのアプリでも、解説つきの問題をスマホで1問ずつ解けて、解説では正解の理由と各選択肢の正誤を確かめられます。デュレーションやリスク中立確率のような用語は、解説の中でタップすると用語辞書が開くので、読むための本を別に広げなくても、その場で意味を確かめながら進められます。間違えた問題だけを解き直す絞り込みを使えば、苦手な型だけを集中して回せます。
数式そのものが苦手な人には、協会がスタディ・ガイドで、科目Ⅲの「数量分析と確率・統計」の関連箇所を並行して参照するよう勧めています(協会 スタディ・ガイド 2026年度版)。現在価値や分散・標準偏差は、科目Ⅰの計算の土台です。

電卓は関数電卓を早めに用意する
電卓は、関数電卓・金融電卓とも持ち込めます。ただし、文章や公式を記憶させて表示できるもの、通信機能があるもの、音が出るものは使えません。CBT方式は持ち込み1台で、試験画面の電卓機能と合わせて2台使える形です。東京の一部会場などのPBT方式(マークシート)は2台まで持ち込めます(CBTソリューションズ 試験概要)。協会は推奨機種を指定していません。
体験記では、関数電卓を勧める声がはっきりしています。
- 2025年春に3科目に合格した みずきゆう さん(アフィリエイトリンクがある記事)は、普通の電卓で受けたことを後悔しており、「結論としては関数電卓は必須です。」と書いています。
- おにおんさんは、科目Ⅰの対策に入ったところで「この段階で関数電卓を買いました。」と書いています。
一方で、予備校の案内の中には、関数電卓はどうしても必要というわけではなく、使い慣れた普通の電卓でもメモリー機能をうまく使えば十分としつつ、平方根の計算は必ず出るので √ キーのあるものを、とするものもあります。
債券価格の複利計算(1.02の5乗など)や標準偏差の平方根は、科目Ⅰで何度も出てきます。どちらにしても、本番で初めて触る電卓にしない ことが一番です。過去問を解く段階から、本番で使う1台で計算しておきましょう。
時間配分:配点の数字=かけてよい分数
1点=1分なので、問題冒頭の配点が、その問題にかけてよい時間の目安になります。科目Ⅰは170分と長いですが、いーちゃんさんのように約3時間でも足りないくらいだったと書く人もいます。
体験記に出てきた解き方は、次の形でした。
- 分からない問題を飛ばして一通り解き、余った50分くらいで見直す(旅する佃煮さん)
- 緊張して文章問題が頭に入らなかったので、株式・債券の計算問題から解き、苦手なデリバティブは後回しにした(揚塩ころもさん)
CBTの画面には「後で見直す」のチェックと、未解答・チェック済みの問題が一覧でわかる「進捗状況」の画面があります(CBT画面操作ガイド)。すべて選択式なので、詰まった問題も何か選んでチェックを付け、先へ進む のが基本です。編集部としては、1周目は配点の8割くらいの時間で進め、残りを見直しに回す形を勧めます(例: 12点の問題なら10分前後)。
分割受験で科目Ⅰを後に回すという選択
科目Ⅰは重いので、分割受験で後に回した合格者がいます。
- おにおんさんは、3科目同時は重いと判断し、2024年4月に科目Ⅱ・Ⅲ(約150時間)、9月に科目Ⅰ(約150時間・2か月)を受けて、どちらも一度で合格しました。
- 経理・財務マンになりたくて さんは、科目Ⅰは計算が複雑という理由もあって科目Ⅱから受け、次の回で科目Ⅰ・Ⅲに合格しています。
受験料は、科目Ⅱ・Ⅲ(7,400円)と科目Ⅰ(7,400円)に分けても、3科目一括(14,800円)と同じです(CBTソリューションズ 試験概要)。
判断の目安をまとめると、次のようになります。
- 会計・数学ともに初めてで、1日1〜2時間しか取れない人: 科目Ⅱ・Ⅲを先に、科目Ⅰを次の回に。先に科目Ⅲの数量分析を固めておくと、科目Ⅰの数式が読みやすくなります。
- 簿記や金融実務の土台がある人: 3科目同時。現在価値やCAPMは科目Ⅱ・Ⅲにも出てくるので、一度にまとめて処理できます。
ただし、秋に科目Ⅰを落とすと次の受験は翌年の春で、半年空きます。受け方の比較は第8回でくわしく扱います。
まとめ:科目Ⅰは「範囲の線引き」と「計算の型」で崩す
- 科目Ⅰは 170分・170点。3科目の半分近くを占める最大科目で、合格者の半数以上が最も難しかったと答えている
- 範囲は株式・債券・デリバティブ・ポートフォリオの4分野。ブラック=ショールズなど2次の論点は1次の範囲外。学習ポイントで線を引く
- つまずきやすいのは 債券・デリバティブ(二項モデル)・ポートフォリオ理論
- 計算は6つ前後の 「型」 で整理し、丸暗記する式と仕組みから覚える式を分ける
- 2026年春は過去問だけでは届かない問題があった。答えではなく理由を覚え、同じ型を別の問題で解き直す
- 電卓は 本番で使う1台で過去問から練習。関数電卓を勧める合格者が多い
9月27日に実施された2026年秋試験(CBT方式の初回)の結果は、11月中旬に協会のマイページで発表されます。これから始める人は、2026年度講座(申込は2027年1月31日まで)を受講して、2027年春から受験する流れです。2027年の試験日程はまだ発表されていません(例年10月末ごろ掲載)。
次回の第6回は、科目Ⅱ「財務分析・コーポレート・ファイナンス」です。配点比3:1の中身と、簿記の知識がどこまで効くのかを、体験記と一緒に見ていきます。
証券アナリスト1次の3科目・計1,500問をアプリで解くなら「ナレッジバンドル」

資格対策アプリ「ナレッジバンドル」には、証券アナリスト1次のオリジナル問題3科目・計1,500問がすべて入っています。スキマ時間に1問ずつ解いて、間違えた問題だけを繰り返せます。
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※この記事は2026-09-26時点の公開情報をもとにしています。試験の制度・日程・受験料は変わることがあるので、受験前に必ず日本証券アナリスト協会の公式サイトとCBTソリューションズの試験概要ページで確認してください。計算の数値例は編集部が作ったもので、実際の試験問題ではありません。体験記の引用は各記事の原文から行い、リンク先に出典を明記しています。紹介した体験記はすべてマークシート方式の時代のものです。