玉掛け技能講習の実技:作業の流れと減点されやすい場面

玉掛け技能講習 攻略シリーズの第7回です。この連載は、第1回で受講者の体験記37件を読み込み、法令・告示や登録教習機関の公開情報と突き合わせて書いています。
前回は合図と指差呼称を扱いました。今回は、その合図も含めた 実技 の全体です。体験記37件で「つまずいた」と書かれていた話のうち、いちばん多かったのが実技でした。手順やセリフが覚えられない、覚えたのに本番の緊張で飛ぶ、という話が10件あります。
私たちは資格の問題集アプリ「ナレッジバンドル」を作っていて、玉掛け技能講習では学科4科目の500問を収録しています。実技の声や体の動きは、アプリでは練習できません。ただ、実技の手順の多くは、学科の「玉掛けの方法」で習う国のガイドラインにそのまま書かれています。500問のうち291問はこの科目の問題で、全問の解説に正解の理由と各選択肢の正誤を書いています。体験記には「なぜその発声をするのか」を考えたら手順が頭に入った、という人がいました。学科で「なぜその順番か」を先に押さえておくと、実技の手順がばらばらの暗記になりにくくなります。
実技は4つ:玉掛け・合図・質量目測・用具選定
玉掛け技能講習規程(告示)が定める実技は、クレーン等の玉掛け6時間と、運転のための合図1時間の計7時間です。玉掛けの範囲は、質量目測、玉掛用具の選定と使用、0.5t以上の荷の基本作業と応用作業です(玉掛け技能講習規程)。講習機関の案内でも、実技の試験は玉掛け・合図・質量目測・用具選定の4つと説明されています。
合格の基準は、講習機関(ボイラ・クレーン安全協会)が公開している基準では、実技は合計点の70%以上で、「なお、採点は減点法により行うこと。」とされています。決まった手順を外すたびに点が引かれていく形です。
配点の内訳は公式には公開されていません。民間の解説記事の一例(教習所によって異なるという注記つき)では、玉掛け作業50点・合図20点・質量目測20点・ワイヤロープの選定10点です。体験記にも同じ内訳を書いた人がいますが、会場ごとの違いはあると考えてください。
体験記から分かる、実技の日の様子は次のとおりです。
- 組: 3人1組で、指揮する玉掛け者1人と補助者2人を交替で回す会場が多い。2人1組の会場もある
- 採点されるのは主(指揮する役)だけ: いなか鉄工の日報さん(【PR】表示のあるブログ)は、試験は主と補助の2人組で採点は主だけと書いています。知恵袋の回答者談にも、補助のときは減点されないという話があります
- 練習してから試験: 同じ課題を3〜4回ほど練習してから本番、という会場が複数ありました
- 1日立ちっぱなし: 同じ方は「基本的に1日中立っていたので地味にしんどかったです」と書いています。実技はおよそ7時間の長丁場です
質量目測と用具選定は、筆記や計測で行う会場が多く、次回の第8回でくわしく扱います。今回は、点数の半分を占める 玉掛け作業の流れ と、減点されやすい場面 に集中します。
作業の流れ:ガイドラインに沿った10の手順
実技の手順の骨格は、厚生労働省の「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」(平成12年 基発第96号)に書かれています(日本クレーン協会掲載の全文)。ガイドラインが「玉掛け者が実施する事項」として挙げる内容を骨格に、実技の流れを10の手順に整理すると次のようになります。

とくに大事なのは、図でオレンジにした3つです。ガイドラインの原文でも、はっきり書かれています。
- 退避してから合図: 玉掛けをしたら、「安全な位置に退避した上で、合図者に合図を行うこと。」。フックのそばに立ったまま巻上げの合図を出すのは、この手順を飛ばしたことになります
- 地切りで止めて確認: 「地切り時につり荷の状況を確認し、必要な場合は、再度着地させて玉掛けをやり直す等の措置を講じること。」。荷が床から少し浮いたところで止め、傾きやワイヤの掛かり方を見ます
- 安定を確かめてから外す: 「玉掛用具の取り外しは、着地したつり荷の安定を確認した上で行うこと。」。あわせて、ワイヤを「クレーン等のフックの巻き上げによって引き抜かないこと。」とされています
もうひとつ、作業全体に通じる決まりとして「クレーン等の作動中は直接つり荷及び玉掛用具に触れないこと。」があります。
地切りの高さと「3・3・3運動」
地切りで止める高さは、民間の資料で「約10cm」「30cm以下」などと説明が割れています。ガイドラインは高さの数字を定めていません。講習で指示された高さに従ってください。
現場でよく聞く「3・3・3運動」(地切り30cm・3秒停止・3m離れる)も、企業や現場の取り組みとして紹介されているもので、法令やガイドラインの数値ではありません。講習で別の言い方を教わったら、そちらが正です。
セリフ(指差呼称)は「確認したこと」を声にしたもの
体験記には、実技のセリフの例がいくつか出てきます。Hiroshi Yamaguchiさんは、一番きつかったのがセリフで、「フック良し!」「アイ部良し!」などを覚えるのが大変だったと書いています。いなか鉄工の日報さんの会場では、「ワイヤヨシ!」などの掛け声を忘れると減点でした。
セリフは、上の10の手順で確認したことを1つずつ声に出したものです。フックの位置を見たら「フック良し」、ワイヤのアイの掛かり方を見たら「アイ部良し」。手順とセリフを別々に覚えるより、「今どこを確認したか」とセリフを結びつけて覚える ほうが崩れにくくなります。セリフの言い回しや順番は会場で違うので、講習で教わった型をそのまま使ってください。
減点されやすい場面
公式の減点表は公開されていません。そのうえで、ガイドラインや法令の手順から外れる行為と、民間の資料・体験記で挙がっている減点の例を並べると、次のようになります。

左側は、公式の手順そのものです。実技の採点表を見なくても、ガイドラインを外れれば減点される、と考えて準備するのが安全です。右側は、民間の資料や体験記に出てくる例で、採点の扱いは会場によって違う可能性があります。
体験記で具体的に書かれていたのは、次のような場面です。
- 退避の確認: deku_nobouさんの会場では、「退避ヨシ」の復唱を怠るだけで減点でした。ああるさんも、補助者の「退避ヨシ」や2人での重心確認を忘れがちだったと書いています
- 掛け声を忘れる: 前述のとおり、「ワイヤヨシ!」などの掛け声を忘れると減点(いなか鉄工の日報さんの会場)
- 声が小さい: 企業サイトの講習レポートには、指差呼称の声の大きさを注意されたという記述があります。福島さんは「少しでも迷うと声量が急減する」と書いています
- 合図: あある さんは「特に合図がなかなか覚えられなくて苦戦した」と書いています
一方で、キカイネット(【PR】表示のある求人サイトのメディア)の筆者は「本番では緊張・疲れからか2つの合図をミスしました。」と書きながら合格しています。ただし、これは減点が70%のラインを割らなかったというだけの話です。ミスしても大丈夫、という意味ではありません。
いちばん多いつまずきは「緊張でセリフが飛ぶ」
実技で落ちた、または危なかった話を読むと、知識が足りなかったというより、覚えていたことが本番で出てこなかった 話がほとんどです。
- 実技で不合格になった知恵袋の27歳の男性は、練習を何周かしたものの「緊張からか前言えてたことが抜けてたり」、言い間違いが多かったと書いています。メモを取るなと言われ、流れの紙も回収されたそうです
- Hiroshi Yamaguchi さんは「緊張のあまり、セリフが飛んでしまった」。補助の2人が小声で教えてくれて、最後まで完走して合格しました
- 知恵袋の別の質問者は「実技で緊張してミスと度忘れ連発しました。」と書いています
- 企業ブログには、若い受講者が本番で言うことを忘れ、止まらなくなった様子が書かれています。筆者の言葉は「テンパってしまうと、止まりません。」
- 知恵袋のもう1人は、他の人がやるのを何回も見たのに、自分の番になると「途中わけわからなくなり注意され」たと書いています
なお、上の27歳の男性は、講師から「昔よりは合格基準がだいぶ厳しくなっている」と言われたと書いています。これは講師の発言で、公式に基準が変わったかは確認できていません。
本番でセリフが飛ばないための覚え方
体験記で、うまくいった人がしていたことをまとめます。どれも講習の中でできることです。

1. 他の人の番は、自分の番のつもりで見る
寺田鉄工所のnoteの水本さんは、指示が止まる場面があったものの「他の人の練習を見ながら真似して覚えていきました」と書き、本番はミスなしでした。知恵袋の回答者談では、見学中に小さく同じ動きをする人、口に出して復唱する人がいるそうです。先ほどの27歳の男性も、講師から、他の人の練習中は座らず近くで観察するよう言われていました。待ち時間を「休み時間」にしないことが共通しています。
2. 目をつぶって、本番のつもりで通す
見ているだけだと、分かったつもりになることがあります。林業のブログの筆者は、他人の実習を見ていると「できている」と錯覚するので、待ち時間は「目をつぶって、想像で作業を行なっていくことです。」と書いています。試験の順番が最後だったこの筆者の組では、「僕以外の人は一つ以上のミスがあったので、」と、本人だけがミスなしでした。
3. 「なぜその発声をするのか」を考える
福島さんは、発声をただ暗記するのではなく、なぜその発声をするのかを考えると手順が頭に入った、と書いています。退避の声は自分と補助者が荷から離れたことを確かめるため、地切りで止めるのは荷の傾きやワイヤの掛かり方を見るため。理由が分かっていれば、途中で1つ抜けても「次は何を確かめるか」から戻れます。民間の資料でも、手順を丸暗記して意味を理解していないことが減点の原因として挙げられています。
講習の夜に、その日習った「玉掛けの方法」の範囲をナレッジバンドルで解き直し、間違えた問題だけを繰り返しておくと、翌日の実技で聞く手順を理由と一緒に確かめやすくなります。実技の動きそのものは、講習で練習するしかありません。
4. 配られた手順の紙を、その日のうちに声に出して読む
知恵袋で「クレーンやワイヤーを見たことも触ったこともない人間」と書いた受講者は、配られた掛け声と順番の紙を、帰宅後に1人でぶつぶつ言いながら予習し、合格しました。ぎゅうどんさんの会場では「講習の3日前にはプリントで手順が配られていました。」。紙がもらえる会場なら、声に出して通すのがいちばん確実です。
5. 声を張る練習をしておく
寺田鉄工所のnoteの延明さんは「まずは恥ずかしいなどの考えを捨てて」大きな声で確認したと書いています。迷うと声が落ちる、と書いた福島さんは、最後まで声を張れるよう練習して臨み、合格しました。声の出し方は前回の第6回でくわしく扱っています。
6. 体力と時間を守る
実技は1日がかりです。deku_nobou さんは、午後3時以降は集中が切れたと書いています。企業ブログには、学科に受かったあとの夜に飲みすぎて最終日の実技に遅れ、失格になった受講者の話もあります。遅刻の扱いは機関によって違い、原則欠席扱い、受講できないと案内している機関もあります。前夜は早めに休み、時間に余裕をもって会場に着くようにしてください。
まとめ
- 実技は玉掛け・合図・質量目測・用具選定の4つ。講習機関が公開している基準では70%以上で、採点は減点法
- 手順の骨格は国のガイドライン。とくに「退避してから合図」「地切りで止めて確認」「安定を確かめてから外す」を飛ばさない
- 地切りの高さや3・3・3運動は法令・ガイドラインの数値ではない。講習で指示された型に従う
- いちばん多いつまずきは、緊張でセリフが飛ぶこと。他人の番を自分の番のつもりで見る、目をつぶって通す、なぜその発声をするのかを考える
- 実技はアプリでは練習できない。学科の「玉掛けの方法」で手順の理由を押さえておくと、講習で習う手順とつながりやすい
次回の第8回は、実技のうち 質量目測 です。軽く見積もって減点された体験記が複数あったので、体積と比重の計算、手尺などの「ものさし」の作り方を整理します。
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※この記事は2026-09-28時点の公開情報をもとにしています。講習の日程・費用・実技の進め方・合格基準の運用・遅刻の扱いは登録教習機関ごとに違うことがあるので、受講前に必ず申込先の機関の案内で最新の情報を確認してください。安全に関わる手順は、玉掛け作業の安全に係るガイドラインと講習で配られるテキストに従ってください。体験記の引用は各記事の原文から行い、リンク先に出典を明記しています。