玉掛け技能講習の仕組み:19時間・科目免除・費用の目安

玉掛け技能講習に申し込もうとすると、最初にいくつか迷うところがあります。自分が受けるのは19時間のコースなのか、もっと短いコースなのか。3日で終わるのか。費用はいくらか。修了証はいつもらえて、何年もつのか。
連載第2回の今回は、こうした 講習の仕組み を、法令・告示(厚生労働省の告示)と登録教習機関の公開情報からまとめます。この連載は、第1回で玉掛け技能講習の体験記37件を読み込み、修了した人とつまずいた人の違いを整理したところから始まっています。今回も、体験記に出てくる日程や費用の話を、公式の情報と突き合わせながら見ていきます。
私たちは資格の問題集アプリ「ナレッジバンドル」を作っていて、玉掛け技能講習の学科4科目の問題500問も、この回で紹介する 学科の時間の比 1:3:7:1 に合わせて配分しました。玉掛けの方法が291問、力学が125問、クレーン等の知識と関係法令が42問ずつです。講習で時間をかける科目ほど問題も多い、という作りにしています。
なお、玉掛け技能講習は国家試験ではありません。都道府県労働局長の登録を受けた 登録教習機関 が行う講習で、講習の最後に、その機関で修了試験(学科・実技)を受けます。全国で同じ日に同じ問題を解く「試験日」はなく、各機関が年間を通して講習を開いています。
まず「自分に必要なのは技能講習か」を確かめる
区切りの「1t」は、クレーンの能力
玉掛けの資格は、扱うクレーン等の大きさで2つに分かれます。
- つり上げ荷重1t以上 のクレーン・移動式クレーン・デリック(と制限荷重1t以上の揚貨装置)の玉掛け → 玉掛け技能講習の修了 などが必要(労働安全衛生法施行令 第20条第16号、クレーン等安全規則 第221条)
- つり上げ荷重1t未満 のクレーン・移動式クレーン・デリックの玉掛け → 特別教育 が必要(労働安全衛生規則 第36条第19号、クレーン等安全規則 第222条)
ここでよくある誤解が2つあります。1つめは、区切りの1tを「つる荷物の重さ」と読んでしまうことです。条文の文言は「つり上げ荷重が一トン以上のクレーン」で、基準になるのは クレーン等の能力 です。2つめは「1t未満なら資格はいらない」という思い込みです。1t未満でも特別教育を受けていなければ、その業務には就けません。
特別教育は事業者が行う教育で、学科5時間以上・実技4時間以上です。告示(クレーン取扱い業務等特別教育規程)には修了試験の規定がありません。一方の技能講習は、登録教習機関が行う19時間の講習と修了試験のセットです。1t以上のクレーン等の玉掛けは、特別教育では行えません(厚生労働省)。
18歳未満の扱いと、受講資格
年少者労働基準規則 第8条第10号は、満18歳に満たない人を、クレーン・デリック・揚貨装置の玉掛けの業務に就かせてはならないとしています(2人以上で行う玉掛けの補助作業は除く)(e-Gov)。
一方で、講習そのものの受講資格(年齢・学歴・経験)を定めた条文は、今回調べた法令・告示の範囲では見つかりませんでした。機関の書き方もまちまちで、「満18歳以上」とする機関もあれば、「どなたでも受講できます。」とする機関もあります(労働技能講習協会)。受講資格は、申込先の機関の案内で確認 してください。
19時間の中身:学科4科目と実技2科目
講習の科目と時間は、玉掛け技能講習規程(昭和47年労働省告示第119号)の第2条で決まっています。免除のない標準のコースは、学科12時間+実技7時間=19時間 です。

学科の4科目は、時間の比でいうと クレーン等の知識1:力学3:玉掛けの方法7:関係法令1。「玉掛けの方法」だけで学科の半分以上を占めます(告示第119号)。
- クレーン等に関する知識(1時間): クレーン等の種類・型式、構造・機能、安全装置・ブレーキ
- 力学に関する知識(3時間): 力の合成・分解・つり合い・モーメント、重心と物の安定、摩擦、質量、荷重、応力、玉掛用具の強さなど
- 玉掛けの方法(7時間): 一般的な作業方法、玉掛用具の選定と使用の方法、基本動作(安全作業方法を含む)、合図の方法
- 関係法令(1時間): 労働安全衛生法・同施行令・安衛則・クレーン等安全規則の関係する条項
実技は2科目です。「クレーン等の玉掛け」(6時間)では、質量目測、玉掛用具の選定と使用、0.5t以上の荷を使った基本作業と応用作業を行います。「運転のための合図」(1時間)は、手や小旗などを使う合図です。
告示では、学科はおおむね100人以内、実技は10人以内を1つの単位として行うことになっています。体験記では、実技を3人1組などの少人数の組で行い、同じ課題を3〜4回練習してから試験に臨んだ、という会場が複数ありました。
修了試験は19時間とは別にある
見落としやすいのが、19時間に修了試験の時間は入っていない ことです。告示第5条は「技能講習においては、修了試験を行うものとする。」とし、学科試験と実技試験を行うと定めています。機関のカリキュラムでは、学科の修了試験に1時間ほどを別に取っている例があります(東京労働基準協会連合会)。
合格の基準は告示には数字がなく、講習機関が公開している基準では、学科が 合計60%以上、かつ各科目40%以上、実技が 70%以上(減点法) です(ボイラ・クレーン安全協会)。学科の問題数や形式(四択・三択・○×)は、体験記を見るかぎり会場ごとに違います。関係法令は1時間しかない科目ですが、各科目40%の足切りがあるので、ここだけ40%を下回ると、合計が60%を超えていても学科は不合格です。
3日間の日程の例
19時間を何日で行うかも、機関が決めています。多いのは 3日間(学科2日+実技1日) です。ある機関の免除なしのコースでは、学科1日目に7時間、学科2日目に5時間の講習と修了試験、3日目に実技7時間と修了試験、という組み方でした(労働技能講習協会)。
体験記37件でも、日数が書かれていたもののうち16件が3日間(学科2日+実技1日)でした。4日間(学科2日+実技2日)の会場が1件、5日間の2件はどちらも小型移動式クレーンなど別の講習とのセットです。セットの講習の日数や費用は、玉掛けだけのものとは分けて考えてください。
日程を組むうえで気をつけたいのが、遅刻の扱いです。「講習時間に遅刻されますと原則として欠席扱いとなります」(西野田労働基準協会)、「遅刻の場合は受講できません」(日本クレーン協会埼玉支部)と明記している機関があります。会場までの道のりは、前日までに一度確かめておくと安心です。
実技の日は体力も使います。いなか鉄工の日報(【PR】を含む記事)の筆者は、実技の日を「基本的に1日中立っていたので地味にしんどかったです」と振り返っています。また、ぎゅうどんさんの会場では「講習の3日前にはプリントで手順が配られていました。」とあり、事前に資料が届くかどうかも機関によって違うことが分かります。
科目の免除:申込みのときに決まる
すでに関連する免許・技能講習や実務経験がある人は、科目の一部が免除されたり、短いカリキュラムで受けられたりします。告示第3条・第4条の区分を、早見図にまとめました。

- クレーン・デリック運転士、移動式クレーン運転士、揚貨装置運転士の免許を持つ人/床上操作式クレーン運転技能講習・小型移動式クレーン運転技能講習の修了者: 力学(3時間)と合図(1時間)が免除され、15時間
- クレーン等の運転の業務に6か月以上従事した経験がある人など: 合図(1時間)だけが免除
- 1t以上の玉掛けの補助作業などに6か月以上従事した経験がある人: 学科11時間+実技5時間の特例で 16時間
- 1t未満のクレーン等の玉掛けの業務に6か月以上従事した経験がある人: 上の特例からさらに合図を除いて 15時間
実際にどのコースを開いているかは機関ごとです。経験者のコースは、事業主による経験の証明が必要とする機関があります(コマツ教習所)。また、合図だけの免除について「※合図免除者は「合図」の採点は免除されますが、講習時間の短縮はありません。」としている機関もあります(日本クレーン協会近畿支部)。
いちばん大事なのは、免除は申込みのときに申請する ことです。同じ機関は「受講申込時以外(受講当日等)は一切免除の取扱いはいたしません。」と書いています。免許証や修了証の写しなど、必要な書類は申込先の案内で確かめてから申し込みましょう。

費用の目安:2万円台が中心
受講料は機関が決めていて、全国一律の金額はありません。2026年9月28日時点で私たちが確認した日本語コースの例では、免除なしの合計(受講料+テキスト代・税込)がおよそ2万円台(20,705円〜26,455円) でした。免除や経験者のコースはそれより安く、18,705円〜23,820円の例があります(労働技能講習協会、西野田労働基準協会、日本クレーン協会近畿支部)。外国語で行うコースは5万円台の例があります。
ある機関は、料金について「20,000~40,000円と幅があります。」と説明しています(東京技能講習協会)。料金は改定されることもあるので、金額は必ず申込先のページで確認 してください。
体験記に書かれていた受講料も、22,000円(2021年)、23,700円、25,000円(2016年)と、ほぼ同じ範囲です。ひとつ注意したいのは、「五日間の受講で費用はおよそ5万円。」と書いているtruth_1986さんの例です。これは小型移動式クレーンの講習とのセットの金額なので、玉掛けだけの費用として読まないようにしましょう。
テキスト代は受講料と一緒に払い、講習の当日に配られる形が多いようです。講習では、このテキストに沿って教わります。
会社で受ける場合の助成金
建設業の中小事業主が従業員に受講させる場合などに、人材開発支援助成金(建設労働者技能実習コース) の対象になりうると案内している機関があります(労働技能講習協会、日本クレーン協会近畿支部)。雇用保険の加入や、受講料を事業主が払っていることなどの条件があります。使えるかどうかは、会社の担当者から都道府県労働局などに確かめてもらうのが確実です。
不合格のときの再受講
再受講のルールは法令・告示には見当たらず、機関ごとに決めています。例えば日本クレーン協会近畿支部では、学科か実技の一方だけ不合格になった人は、講習の修了後2か月以内に再受講料8,000円(税込)で再受講でき、両方不合格の場合はこの制度がありません。つまずいたときの話は、連載の最終回でくわしく扱います。
修了証:即日交付が多い・業務中は携帯
交付の時期
登録教習機関は、修了者に「遅滞なく」技能講習修了証を交付することになっています(労働安全衛生規則 第81条)。多くの機関は当日に渡していて、「修了試験に合格すると、原則として当日修了証(写真入りプラスチックカード)を交付いたします。」(東京労働基準協会連合会)、「*修了証は原則的に即日交付。」(労働技能講習協会)といった案内があります。
ただし体験記には、2週間以内に通知が来るという会場や、2026年3月に受講した高校3年生が、何か月もたってから「まだ合否が発表されてなくて」と知恵袋で相談している例もあります。仕事の予定に合わせて修了証が必要な人は、交付の時期も申込みのときに確かめておくと安心です。
携帯の義務と再交付
労働安全衛生法 第61条第3項により、玉掛けの業務をするときは 修了証などの資格を証する書面を携帯 していなければなりません(e-Gov)。
なくしたり傷めたりしたとき、氏名が変わったときは、交付を受けた登録教習機関 で再交付・書替えを受けます(労働安全衛生規則 第82条)。厚生労働省は、再交付について「その登録機関又は不明な場合は都道府県労働局にお問い合わせください」としています。複数の技能講習の修了証を「技能講習修了証明書」1枚にまとめる仕組みもあります(登録機関から情報が提供されているものに限る)(厚生労働省)。
有効期限は?
今回調べた範囲では、修了証の有効期限を定めた法令の規定は見つかりませんでした。一方で「更新は一切不要」とはっきり書いた一次情報も確認できていません。関連するものとして、厚生労働省の「危険有害業務従事者に対する安全衛生教育指針」が、就業制限のある業務に就く人への おおむね5年ごとの安全衛生教育 を事業者に求めています。これは修了証の更新ではなく、事業者が行う別の教育です。
2026年4月の告示改正で変わったこと
玉掛け技能講習規程(告示第119号)は、令和8年2月20日の厚生労働省告示第44号で改正され、2026年4月1日から適用されています(厚生労働省 法令等データベース)。改正箇所として示されているのは第1条(講師の要件)で、講習の科目・時間・修了試験の条文は改正の対象として表示されていません。今回確認できた範囲では、「2026年4月から講習の中身が変わった」とまでは言えません。
講習を受ける人は今も多く、厚生労働省の公表では、玉掛け技能講習の修了者は 令和6年度に176,802人、登録教習機関は 601 でした(厚生労働省)。一方で、国は合格率を公表していません。「ほぼ全員が受かる」といった数字を見かけても、根拠のある統計ではない点は覚えておいてください。
まとめ:申し込む前に確かめる5つのこと
- 扱うクレーン等は1t以上か(区切りはクレーンの能力。1t未満でも特別教育が要る)
- 自分のコースは何時間か(19時間/免許・技能講習があれば15時間/経験者は16時間・15時間など)。免除は申込みのときに申請
- 日程と遅刻の扱い(3日間が多い。遅刻は欠席扱いや受講不可の機関がある)
- 費用(免除なしで2万円台が目安。会社で受けるなら助成金の対象になるか)
- 修了証の交付時期(即日が多いが、会場による)
日程が決まったら、講習までの時間の使い方も考えておきたいところです。19時間のうち学科は12時間で、力学の計算と法令の数字が出てきます。私たちのアプリでは、講習前に学科の問題に一度触れておく予習や、講習の日の夜にその日の範囲を解き直す復習に使えるよう、全問に正解の理由と各選択肢の正誤の解説を付け、間違えた問題だけを出し直せるようにしています。一方、質量目測の感覚や合図の声、玉掛けの体の動きといった実技は、アプリでは練習できません。実技は講習の中で、講師に教わった型をくり返して身につけるものです。
連載の第3回では、学科でいちばん「頭を使う」力学を取り上げ、質量・張力・モード係数の計算の型を整理します。
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※この記事は2026-09-28時点の公開情報をもとにしています。講習の科目・免除・費用・日程・修了証の扱いは機関ごとに異なり、改定されることもあるので、申し込む前に必ず申込先の登録教習機関の案内と厚生労働省の公開情報で確認してください。体験記の引用は各記事の原文から行い、リンク先に出典を明記しています。登録教習機関の名前は出典として示したもので、特定の機関をすすめるものではありません。