玉掛け技能講習の法令:安全係数・廃棄基準など数字の覚え方

「玉掛け技能講習 攻略シリーズ」第4回です。この連載では、第1回で紹介したとおり、玉掛け技能講習の体験記37件を読み込み、法令・告示・厚生労働省の公表と突き合わせて、講習の前に何を知っておけば慌てずに済むかを整理しています。
今回は、学科4科目のうち 関係法令 を扱います。講義はたった1時間ですが、ワイヤロープの安全係数や使ってはいけないワイヤの基準など、数字がまとまって出てくる科目です。しかも、講習機関が公開している合格基準では、合計点とは別に 科目ごとの足切り があります。
最初に書き手のことを少しだけ。私たちは資格の問題集アプリ「ナレッジバンドル」を作っていて、玉掛け技能講習の500問は、法定の学科の時間の比(1:3:7:1)に合わせて科目ごとに配分しています。関係法令は42問と数は少なめですが、6・5・4、10%・7%・5% のように似た数字が並ぶ科目です。全問の解説で各選択肢の正誤まで確かめられるようにしているのは、こうした数字の取り違えを、どこで間違えたのか分かる形で直せるようにするためです。
この記事では、条文の数字を「何の数字か」「以上か、超えるか」までセットで整理し、取り違えやすい誤解と覚え方をまとめます。
関係法令は講義1時間、でも足切りがある
玉掛け技能講習の学科は、告示で次の4科目・12時間と決まっています(玉掛け技能講習規程)。
- クレーン等に関する知識: 1時間
- 玉掛けに必要な力学に関する知識: 3時間
- クレーン等の玉掛けの方法: 7時間
- 関係法令: 1時間
関係法令の範囲は、労働安全衛生法・施行令・労働安全衛生規則・クレーン等安全規則(以下、クレーン則)のうち玉掛けに関係する条項です。
合格基準の数字は告示には書かれていません。講習機関が公開している基準では、学科は 合計60%以上、かつ各科目40%以上 です(ボイラ・クレーン安全協会)。講義時間が短い科目でも、40%に届かなければ合計点が足りていても不合格になります。
体験記にも、この足切りを気にする声がありました。
- ある受講者の会場では、学科は50問で、そのうち法令は5問だけだったそうです。1問の重みが大きく、各分野4割を下回ると不合格になる点がつまずきやすい、と書いています(キカイネット。【PR】を含む記事)。その会場の配点なら、5問中2問正解で4割に届きますが、4問落とすと足切りです
- 法令の講義が一番眠かったが、テストには出た(庶民の生きがいブログ)
- 法令の範囲は狭い(アラサーおにいさんの備忘録)
- 初日の午前に習ったことを忘れやすいので、試験前に復習したほうがよい(40代で転職した配管工のブログ。【PR】を含む記事)
学科の問題数や形式は会場によって違い、20問・40問・50問という記載がばらばらに見つかります。「法令は5問」はあくまで一つの会場の話ですが、範囲が狭く、問題数が少ない科目ほど、1問の取りこぼしが響く という構造は、どの会場でも変わりません。
2026年8月に受講した 寺田鉄工所の note では、1日目に安全係数、ワイヤのより方、点検と使用禁止の基準を習ったと書かれています。法令の数字は、講習の早い段階で出てくることがあるわけです。
そもそも誰が玉掛けをしてよいのか
数字に入る前に、法令の骨格を押さえておきます。
- 労働安全衛生法 第61条: 事業者は、政令で定める業務に、免許を受けた人や技能講習を修了した人などでなければ就かせてはならない。第2項は本人側の決まりで、「前項の規定により当該業務につくことができる者以外の者は、当該業務を行なつてはならない。」。第3項で、業務中は修了証などを 携帯 する義務があります(e-Gov 労働安全衛生法)
- 施行令 第20条第16号: 対象は、つり上げ荷重が1トン以上のクレーン・移動式クレーン・デリック(制限荷重1トン以上の揚貨装置を含む)の玉掛けの業務(e-Gov 施行令)
- クレーン則 第221条・第222条: 1トン以上は技能講習の修了者など、1トン未満は 特別教育 が必要(e-Gov クレーン則)
ここで間違えやすいのが、「1トン」は クレーンのつり上げ荷重(能力) の区切りで、つる荷の質量ではないという点です。また、「1トン未満なら資格はいらない」も誤りで、1トン未満でも特別教育が必要です。
もう一つ、クレーン則の条文を読むと、ほとんどが「事業者は、〜しなければならない」「〜使用してはならない」という 事業者の義務 の形で書かれています。学科の問題で主語を入れ替えた選択肢が出ても、この形を知っていれば落ち着いて読めます。
安全係数は「ワイヤだけ6」
安全係数は、用具の切断荷重を、その用具にかかる荷重の最大値で割った値です(クレーン則 第213条第2項)。クレーン則は、次の値 以上 でなければ使用してはならないと定めています。
- 玉掛け用ワイヤロープ: 6以上(第213条)。条文は「六以上でなければ使用してはならない。」
- 玉掛け用つりチェーン: 4以上または5以上(第213条の2)。伸びや引張強さについて一定の要件を満たすものが4、それ以外が5
- 玉掛け用フック・シャックル: 5以上(第214条)
覚え方は 「ワイヤだけ6、金具は5、チェーンは4か5」 です。計算に直すと、1本にかかる荷重の最大値が10kNなら、ワイヤロープは切断荷重60kN以上のものが必要、ということになります(10×6)。第3回で扱った張力の計算は、最後にこの安全係数と組み合わさります。
ありがちな取り違えは「安全係数はどれも6」です。チェーンやフック・シャックルは6ではありません。また、日本クレーン協会の比較表では、玉掛け用ではない 台付け用ワイヤロープは4以上 とされています(日本クレーン協会 玉掛け用ワイヤロープの点検)。「玉掛け用」という言葉が付いているかどうかにも注意が必要です。
使ってはいけない基準は「以上」と「超える」を分ける
安全係数の次は、傷んだ用具の使用禁止の基準です。数字が四つ並ぶので、図にまとめました。

- ワイヤロープ(第215条): 1よりの間で素線の数の 10%以上 が切断している/直径の減少が公称径の 7%を超える/キンクした/著しい形くずれや腐食がある
- つりチェーン(第216条): 伸びが製造時の長さの 5%を超える/リンクの断面の直径の減少が製造時の 10%を超える/き裂がある
- フック・シャックル・リング等の金具(第217条): 変形している、またはき裂がある
- 繊維ロープ・繊維ベルト(第218条): ストランドが切断している、または著しい損傷や腐食がある
学科で狙われやすいのは、数字そのものより 境目の言葉 です。条文を読み比べると、ワイヤロープの素線の断線だけが「以上」で、ほかの割合はすべて「超える(こえる)」です。素線の断線は10%ちょうどでも使用禁止に含まれ、直径の減少は7%を「超えた」ものが使用禁止、という書き分けです。
さらに、「直径が5%減ったら使用禁止」という覚え方も出回っています。法令の数字は7%を超えるもので、5%は日本クレーン協会が簡易点検の廃棄基準として示している、より厳しい目安です(日本クレーン協会)。現場で5%の目安を使うのは安全側の運用ですが、「法令では何%か」と聞かれたら7%を超えるもの、と答えます。講習で配られるテキストがどちらをどう説明しているかも、講義で確かめておきましょう。
作業開始前の点検と、合図者の指名
数字以外で、法令から出やすいのがこの二つです。

作業開始前の点検(第220条): 事業者は、ワイヤロープ・つりチェーン・繊維ロープ・繊維ベルト・フックやシャックル等の金具を使って玉掛けをするときは、「その日の作業を開始する前に当該ワイヤロープ等の異常の有無について点検を行なわなければならない。」とされています。異常があれば直ちに補修しなければなりません。「週に1回」「月に1回」ではなく その日の作業の前 です。実技でも、最初に用具の断線やキンクを確かめる流れになっているのはこのためです。
一定の合図と合図者の指名(第25条・第71条): クレーン(移動式クレーンは第71条)を使って作業するときは、事業者が運転について 一定の合図 を定め、合図を行う者を指名 して、その人に合図を行わせます。指名された人は合図を行い、作業に従事する労働者は合図に従います。運転者が単独で作業する場合は除かれます。
笛の回数などが会場によって違うのは、合図が事業場ごとに「一定の合図」として定めるものだからです。手の合図や笛の扱いは、第6回でくわしく扱います。
つり荷の下に入ってはいけない6つの場面
安全に直結する条文として、つり荷の下への立入禁止があります。クレーン則は、次の場面では、事業者が つり上げられている荷の下に作業従事者が立ち入ることを禁止 しなければならない、と定めています(クレーンは第29条、移動式クレーンは第74条の2)。

- ハッカーを用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき
- つりクランプ1個を用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき
- ワイヤロープ等を用いて1箇所に玉掛けをした荷がつり上げられているとき(荷に設けられた穴またはアイボルトにワイヤロープ等を通して玉掛けをしている場合を除く)
- 複数の荷が一度につり上げられていて、結束や箱に入れるなどで固定されていないとき
- 磁力または陰圧で吸着させるつり具・玉掛用具を用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき
- 動力下降以外の方法で荷またはつり具を下降させるとき(この場合はつり具の下も含む)
覚え方の軸は、「1個」「1箇所」「固定していない」「吸着」「動力以外」 のように、荷が外れたり落ちたりしやすい条件が並んでいる、という点です。3には、荷に設けられた穴やアイボルトにワイヤロープ等を通して玉掛けをしている場合は除く、という例外が付いています。1箇所の玉掛けがすべて対象になるわけではない点まで、セットで覚えておきましょう。
なお、ここに挙がっていない場面なら荷の下に入ってよい、という意味ではありません。講習では、作業中につり荷の下に入らないこと、退避してから合図することを繰り返し教わります。
関連して、外れ止め装置は、備えているクレーンでは使用が義務(第20条の2)、移動式クレーンでは荷をつり上げるときに使用が義務(第66条の3)です。
取り違えやすい4つの誤解
法令の科目では、現場の言い伝えや安全側の目安が「法律の数字」として覚えられていることがあります。講習の前に、次の4つを整理しておくと迷いません。
- 「直径5%減で使用禁止」 → 法令は公称径の7%を超えるもの。5%は日本クレーン協会の簡易点検の目安
- 「安全係数はどれも6」 → ワイヤロープ6、つりチェーン4または5、フック・シャックル5
- 「つり角度60度以内は法律」 → クレーン則につり角度の数値はありません。つり角度は「玉掛け作業の安全に係るガイドライン」(平成12年 基発第96号)で原則90度以内、2本4点半掛けつりなどは原則60度以内とされています(ガイドライン全文)。つり角度は第5回で扱います
- 「1本つりは法律で全面禁止」 → 確認した条文には1本つりそのものを禁ずる規定は見当たらず、法令は1箇所に玉掛けした荷などについて つり荷の下への立入禁止 を義務づける形です。日本クレーン協会は、1本づりは荷が回転するので好ましくないとしています(日本クレーン協会)
どれも「危ないからやめておこう」という方向では正しい話です。ただ、学科の問題は「法令ではどう定められているか」を聞いてきます。法令・ガイドライン・業界団体の目安を区別して覚える のが、この科目のいちばんのコツです。
数字を講習の中で定着させるやり方
体験記には、講習の前に問題演習をしたと書いた人はいませんでした。一方で、講習の日の夜に復習した人(寺田鉄工所の note)、初日午前の分を試験前に見直すよう勧める人(配管工のブログ)はいます。法令の講義は1時間なので、数字を定着させる時間は講習の中だけではどうしても短くなります。
- 講習の前に: クレーン則の第213条〜第222条、第25条、第29条は、e-Gov 法令検索で無料で読めます。全文を覚える必要はなく、図にまとめた数字を一度見ておくだけで、講義を答え合わせとして聞けます
- 講義中は: 講師が「ここは出る」と言った数字に線を引き、「何の数字か」「以上か、超えるか」を書き添える
- 講習の夜に: その日の範囲を問題で解き直す。数字の問題は、解けたかどうかより、どの数字と取り違えたかを確認するのが大事です
私たちのアプリでも、関係法令の42問を「間違えた問題だけ」に絞って解き直せるので、講習の夜の短い時間で取り違えた数字だけを見直す、という使い方ができます。ただし、ワイヤロープを実際に手に取って断線やキンクを見つける点検や、実技の手順は、講習で体を動かして覚えるものです。アプリで練習できるのは学科の部分だけ、というのが正直なところです。
いなか鉄工の日報(【PR】を含む記事)の筆者は、学科を数字系は少し難しいと振り返り、「ノー勉だと普通に危ない」と書いています。法令は、その「数字系」がいちばん集まっている科目です。
まとめ
- 関係法令は講義1時間だが、講習機関が公開している基準では 各科目40%以上 の足切りがある。問題数が少ない会場では1問の重みが大きい
- 1トンの区切りは クレーンのつり上げ荷重。1トン未満も特別教育が必要
- 安全係数は ワイヤロープ6、つりチェーン4または5、フック・シャックル5
- 使用禁止は 素線の断線10%以上、ワイヤの直径7%超、チェーンの伸び5%超、リンクの直径10%超。「以上」と「超える」を分ける
- 点検は その日の作業を開始する前。合図は事業者が定め、合図者を指名する
- つり荷の下への立入禁止は 6つの場面。穴・アイボルトに通す場合の例外に注意
- 「直径5%」「60度」「1本つり全面禁止」は、法令の数字ではない。法令・ガイドライン・業界団体の目安を区別する
次回の第5回は、学科でいちばん時間の長い「玉掛けの方法」と「クレーン等の知識」です。ガイドラインが定めるつり角度、深しぼりやあや掛けの張力の扱い、掛け方ごとの長所と短所を整理します。
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※この記事は2026-09-28時点の公開情報をもとにしています。法令は改正されることがあり、講習の日程・費用・合格基準の運用・持ち物は講習機関ごとに異なるため、最新の条文はe-Gov 法令検索で、講習の詳細は申込先の登録教習機関の案内で必ず確認してください。体験記の引用は各記事の原文から行い、リンク先に出典を明記しています。